CX-5のフルモデルチェンジの際にマツダ独自のハイブリッドを搭載することが発表されました。自社技術の中身が発表されていませんので、様々な憶測を呼んでいます。せっかくなので正式に発表される前に予想してみようと思います。
まずわかるのはトヨタのハイブリッドシステムではないということ。すなわち、2モーターで遊星歯車を介してエンジン動力を駆動力と発電とに任意に配分するシステムではないということです。トヨタのハイブリッドシステム自体はトヨタが他社にも無料で開放しており、やろうと思えばやれないこともないのですが、なにぶん制御が難しく、その一番難しい制御の部分を自社で開発するのは困難ということでマツダはだいぶ前にこの方式の自社開発を諦めてトヨタのハイブリッドシステムをOEM導入することを決めました。燃費性能は世界最高レベルですし、モーターやインバータの小型軽量化が進みコストも下がった結果、コスト面でも重量面でも普通のガソリンエンジン車との差が小さくなっています。
現在マツダが持っている技術は、ラージプラットフォーム向けのPHEVとMX-30で採用されたロータリーエンジンで発電するタイプのEVです。しかしどちらもそのままCX-5に移植することができませんので、CX-5向けの独自開発が必要です。まだ詳細が発表されていないのはそのためでしょうか。
前者は、エンジン自体はマツダでありふれた2.5Lガソリンエンジンですが、縦置きエンジンのFR向けのプラットフォームですので横置きエンジンのFF車であるCX-5にそのまま移植することができません。後者はCセグメントのMX-30向けのシステムで、一回り大きいCX-5に移植するにはエンジンのパワーが足りません。そもそもロータリーエンジンは小型軽量という利点はあっても、エンジン自体の燃費は原理的にレシプロエンジンに劣ります。そこでMX-30用のロータリーエンジンでは燃費に特化した結果、ロータリーエンジンの燃費としては驚異的に改善しましたが、それでも日産やホンダのレシプロエンジンベースのシリーズハイブリッド車の燃費にまだ及びません。
サイズの大きいCX-5なら敢えて小型軽量のロータリーエンジンを採用するまでもなく、既存の1.5Lガソリンエンジンや2Lガソリンエンジンを発電専用に調整したものを使う方がはるかに簡単ではないでしょうか。Mazda 3での燃費を比較する限り、2Lエンジンを低回転で使うよりも1.5Lエンジンを高回転で使う方が燃費が良さそうです。これなら日産のe-Powerくらいの燃費は達成きます。
シリーズハイブリッドは120km/h以上の高速域の燃費が悪いのが弱点ですが、北米のインターステート・ハイウェイの最高速度は時速70マイル(112km)かつ速度取り締まりが厳しいので、120km/h以上での燃費の悪さが顕在化しません(だからこそハリアーみたいな鈍重な車が売れるわけです)。日本でも公道での最高速度は120km/hです。速度域の高い欧州向けを諦めて、高収益の北米向けに特化すればシリーズハイブリッドでもやれないこともなさそうです。欧州といっても、アウトバーン以外の高速道路の最高速度は130km/hですので、モーターと推進軸の間に小容量の歯車を介せばできないこともないかもしれません。どのみち電気モーターは低回転で大トルクを出しますので、ディーゼルエンジン同様に若干ハイギアードにしても加速できます。また、モーターの出力軸がそのまま推進軸にならないのでしたら、どのみちどこかで歯車を介すことになりますので、そこで歯車比を調整して増速すればよいでしょう。
CX-5は車高の高いSUVですので、床下にバッテリーを積むスペースがあります。バッテリーの搭載量に応じて電気モーターだけで走れる距離を調整できます。レシプロエンジンによるシリーズハイブリッドの充放電制御は、ラージプラットフォーム向けのPHEVの充放電制御とほぼ同じですので、ハードウェアはともかくソフトウェアについては既存の技術を流用しやすいでしょう。
レシプロエンジンベースのシリーズハイブリッドでは、Mazda 3やMazda 2のような小さいサイズの車には展開できないかもしれませんが、CX-5は単体で数が出る車ですので、CX-5だけのための技術があっても、安価な技術なら開発費を回収できそうです。少なくともロータリーエンジンの燃費をさらに改善して2ローターにしてCX-5に積むよりは安くつくのではないでしょうか。