2018年10月11日木曜日

GVC Plusに関する素朴な疑問

2018年10月11日にG-Vectoring Control Plus (GVC Plus)が発表されました。最初はCX-5から搭載されるようですが、いずれマツダの全車種に展開されるようです。プレスリリースによると、以下の効果が期待できるとのことです。
新たにブレーキによる車両姿勢安定化制御(直接ヨーモーメント制御)を追加することで、より高い安定化効果を実現しました。旋回中のドライバーのハンドル戻し操作に応じて外輪をわずかに制動し、車両を直進状態へ戻すための復元モーメントを与えることで安定性を向上。ヨー、ロール、ピッチの各回転運動のつながりを高い旋回Gの領域まで一貫させ、素早いハンドル操作に対する車両の追従性を高めるとともに、挙動の収束性を大幅に改善します。これにより、緊急時の危険回避能力を高めるとともに、高速走行時の車線変更や、雪道など滑りやすい路面環境においても、人間にとって制御しやすく、より安心感の高い動きを提供します。
実際に乗ってみれば効果を実感できるのでしょうが、このプレスリリースを読んだ時点でいくつかの素朴な疑問を抱きました。

1.なぜエンジントルクの制御ではなくブレーキによる制御なのか

GVC発表時には、エンジントルクを制御する理由として「ブレーキよりもエンジンの方がはるかに反応速度が速い、とりわけSkyactivエンジンは反応が速いため、理論通りに実装できる」ということが挙げられていました。それなら曲がりすぎないようにするためには同様にエンジントルクを増やせば済むはずです。どうして「反応が遅い」はずのブレーキで制御するのでしょうか。

思い当たるのは、エンジンとブレーキとで担っている領域が異なる可能性です。エンジントルクの制御では0.01G~0.05Gの微小なGの変動による揺れを抑え込むことに主眼が置かれます。ブレーキによる制御は「素早いハンドル操作」による「高い旋回Gの領域」に対して効果的とされていますが、このときに発生するGは0.2G~0.4Gくらいと1桁以上異なります。微小な振動を抑え込むときほどには素早い反応が求められているわけではない一方で、より大きな曲げモーメントを発生させる必要があります。

2.だったらコーナー脱出時にアクセルを踏めばよいのではないか

コーナー手前でブレーキをかけるのは難しいですが、コーナーから出るときにアクセルを踏んで加速するのは比較的簡単です。それくらい人力でできるのではないでしょうか。

たしかに通常のコーナーではさほど難しくありませんが、危険回避のために避けるときや急に車線を変更するときにはS字コーナーを曲がることになります。S字コーナーではコーナー入口から出口まで向きが変わっても等速を維持しないとうまく曲がれません。アクセルを踏んでからブレーキを踏んでなんてやろうとしても操作が追い付きません。しかも自分を含めて素人は大抵ステアリング操作が遅れます。急な操作であればなおさらです。本来ステアリング操作はコーナリングフォースを与えるための操作なので早めの操作が必要なのですが、曲がりたい方向にステアリングを切るという発想だと操作が遅れます。

そういうヘタクソのためにステアリング操作からドライバーの意図を汲み取って曲がりすぎないように補正するのが効果的なのかもしれません。

3.なぜハンドルを切る際の動作に言及されていないのか

車体を曲げることを目的としたトルクベクタリング自体は他社でとっくに実現していて、特にブレーキによって制御する方式は、駆動力の損失が生じる反面、デフに凝ったギミックを載せるのと違って構造が比較的シンプルです。曲げたい側の車輪にブレーキをかけることで姿勢を制御するなら、ハンドルを戻すときだけでなくハンドルを切るときにも効果があって然るべきですし、他社ではむしろそちらをアピールしています。しかしマツダではなぜかそちらは強調されていません。

まず思い当たるのは、コーナリングの際にブレーキをかけるなら、ハンドルを切ってからブレーキをかけるのでは遅くて、先に十分に減速してからハンドルを切る操作とブレーキを抜く操作を同時に行うことが必要です。しかし、ハンドルを切る前にブレーキを踏んで減速している時点では、車はどちら向きに曲がろうとしているのか判断できません。ではハンドルを切ってからブレーキをかけるのはどうかというと、内輪にブレーキをかけて無理やり曲がるのは、たとえそれが可能であっても、減速Gから横Gへと滑らかに繋ぐという考え方と両立しないのではないかと想像します。

もう一つの可能性としては、エンジントルクを絞る既存のGVCでも既に高めの速度でコーナーに突っ込んでも意外と曲がれてしまうため、敢えて内輪にブレーキをかけて無理やり曲げる動機が乏しいのかもしれません。