2025年11月4日火曜日

VISION X-COMPACT

2025年のジャパンモビリティーショーで、VISION X-COUPEと並んでBセグメントのVISION X-COMPACTも発表されました。Mazda 2をやめるという噂もある中で、MazdaはまだBセグメントを諦めていないという意思表示に感じられました。

まだ写真で見ただけですが、Mazda車特有のAピラーを倒してCピラーを立ててキャビンを後ろ側に寄せるような形にしてスポーツカーらしくする手法とは逆で、MX-30と同様にAピラーを立ててCピラーを倒すことでキャビンを前に寄せています。その結果、Hondaの小型車のようなずんぐりむっくりした形になっています。また、ドライバーの頭上から屋根が下がるような形状になっていて、この辺りはスイフトを思い起こさせます。実際には、Cピラーが下がって見えているだけであって屋根を張り上げた部分を黒くして隠しているだけですので後席の空間は確保されているはずですが。ちんちくりんなのに無理してスポーツカーのようになろうとせず、コンパクトカーはコンパクトカーらしくなろうとしているのが見て取れます。

電動化を念頭に置いてかフロントグリルがありませんが、将来的にはそうすることを目指しているのか、既に現行Mazda 2でもフロントグリル部分をプラスチック板で塞ぐ意匠にしています。必要もないのに穴を開ければその分空力損失が発生しますので、必要以上の穴を開けないようにしているのでしょう。

疑問に思ったのはサイズ。全長3,825mm、ホイールベース2,515mmとあります。Mazda 2は全長4,080mmでホイールベース2,570mmですので、全長で255mm、ホイールベースで55mm短くなっています。一体どうやってスペースをやりくりしたのでしょう。小さい車ほど天地寸法でスペースを稼ぐものですが、Mazda 2の全高1,550mmに対して1,470mmとコンパクトカーにしてはかなり低いです。コンセプトカーだから思い切ったことができるというのもあるかもしれませんが。

スイフトが全長3,860mm、ヤリスが全長3,950mmですので、ヤリスはおろかスイフトよりも短いです。スイフトの後席はかなり狭いですし、荷室の奥行きも小さめです。ボンネットもそんなに長くありません。スイフトよりも短くしようとしたらスイフトよりもさらに切り詰めなければなりません。普通のレシプロエンジン車なら必ずどこかにしわ寄せが来ているはずです。

となると思い浮かぶのは普通のレシプロエンジン車ではないということ。電気自動車ならボンネットを短くできますし、ロータリーエンジンを積むのであってもレシプロエンジンよりは省スペースでしょう。床にバッテリーを積んでいるのかと思いましたが、その割には全高が低めです。Mazdaはスポーツカー向けにバッテリーと低重心とを両立させるパッケージに挑んでいますので、その成果を応用しているのでしょうか。だとしたらセンタートンネルにバッテリーを積んでいそうです。Mazda 2よりも車幅が100mmほど広くなったのは、素直に考えれば側面からの衝突安全性能を確保するためと推測できますが、もしかしたらセンタートンネルにバッテリーを積むためもあるかもしれません。AT専用のFF車でしたらこんなにごついセンタートンネルは必要ないはずです。ロードスターはセンタートンネル部分で車体剛性を確保していますので、VISION X-COMPACTもバッテリーを固定したセンタートンネルで剛性を確保しているのではないでしょうか。見た目はコンパクトカーですが、その形を実現するためにスポーツカー向けの技術を応用しているのだとしたら大したものです。もしかしてFF屋根付きのロードスターを目指しているのでしょうか。

あるいは、電気モーター駆動でしたら前輪駆動にこだわる必要がありませんので、後輪駆動かもしれません。Mazdaはかねてより、電動化の時代は後輪駆動の時代だと主張していますし。後方荷室下にインバータとモーターを設置すればRRにできます。RR車は直進安定性が低いのが弱点ですが、ホイールベースが短くさほどパワーの無い小型車でしたらRRでもさほど問題なくて、現にルノー・トゥインゴやその兄弟車であるSmartはしばらく前までRRでした。Aピラーを立ててCピラーを倒してキャビンを前に寄せるデザインにしているのは、もしかして後方にパワートレインを配置するためのスペースを確保するためでしょうか。パワートレインを後ろに寄せれば前方のスペースに余裕ができますので、その分ボンネットを短くすることができるでしょう。次期ロードスターを作るにしてもMazda2と共通化できる部分は共通化した方がコストを圧縮できます。ND型ロードスターのエンジンがMazda2用の1.5Lエンジンをベースにしているのと同様に(もっとも、そのまま載せているわけではなくてロードスター向けには相当作り込んでいるようですが)。VISION X-COMPACTをベースにロードスターを作るとしたらどんなエクステリアデザインになるのか楽しみです。

設計を欲張るのであれば、センタートンネルの中にロータリーエンジン直結の細いドライブシャフトを入れて後方に変速機を配置してエンジン駆動のFRにすることもありえます。ロータリーエンジンはなるべく高回転を保って回す方が熱効率が良いので、エンジンと変速機の間を高回転のドライブシャフトにすればその分トルクが小さくなりますのでドライブシャフトを細くすることができます。CX-5向けのMazda独自のストロングハイブリッドはエンジンーモーターー変速機の順でつながっていますので、エンジンを前方に配置して、ドライブシャフトで後方のモーターにつなぐのでしたらストロングハイブリッド車の設計を流用できます。コスト競争力が求められるMazda 2ではあまり凝ったことをしないでしょうが、高い値付けが可能なロードスターなら欲張ることもできそうです。

ジャパンモビリティショーで公開されているのはエクステリアデザインとインテリアデザインだけで、パワートレインは公開されていないようですので、パワートレインは推測するしかありませんが、まだ発表できないだけで実際にはいろいろと考えていそうな感じです。

本来、Mazdaの体力のもとで利幅の小さいBセグメント車を開発する余裕はないはずです。しかしMazdaはロードスターをやめるつもりはないでしょうから、ロードスターを作るついでにその種車のMazda 2を作るのであれば、Bセグメント車を続けることができます。それが冒頭のBセグメント車を諦めないというメッセージになっているのではないかという気がします。

次期ロードスターのコンセプトモデルを発表するとVISION X-COUPEと被るでしょうから、敢えて意外性のあるVISION X-COMPACTを発表して、そこから受け手にいろいろ考えさせようとしているのではいでしょうか。