ロータリーエンジンと蓄電池によるマルチ電動化技術が2018年に公表されています。これは同じ技術を用いて蓄電池容量に応じてレンジエクステンダーEV、PHEV、シリーズハイブリッド車を作り分けるというものです。このうちレンジエクステンダーEVの開発が中止されたことが2021年6月に判明しました。
レンジエクスデンターEVはEVに関する規制の産物で、発電用エンジンによる走行距離が蓄電池による走行距離を超えてはならないとか、蓄電池を使い切ってからでないと発電用エンジンを使ってはならないといったルールがあり、蓄電池走行時には発電用エンジンが死重になることから、小型軽量のロータリーエンジンに白羽の矢が立ちましたが、なにぶん規制は人為的なものですので、そこに開発リソースを振っても空振りに終わるリスクがあります。それならロータリーエンジンと燃料の代わりに蓄電池を余計に積んだ方がリスクが低いでしょう。
残るはPHEVとシリーズハイブリッドですが、果たしてこれらにロータリーエンジンは必要なのでしょうか。たしかにロータリーエンジンは小型軽量ですし、原理的に燃費が悪いといっても、発電専用エンジンとして熱効率の良い領域だけで使うならレシプロエンジンの燃費に比べてさほど劣らないとされています。
しかしシリーズハイブリッドは高速域での燃費が悪く、そのためにホンダは75km/h以上ではエンジン直結で駆動しています。欧州の燃費規制が厳しくなると高速域の燃費改善のためにエンジンによる直接駆動が必要になり、そうなると、変速機がよほど高性能でない限り、ロータリーエンジンが苦手とする領域で使わざるを得なくなり、燃費が頭打ちになってしまうのではないでしょうか。75km/h~180km/hの領域でエンジンで直接駆動しようとすると、エンジン回転数に2倍以上の差がついてしまいますが、何段かに変速しようとすると結局ATまたはCVTを積むことになり、高価で重量のある変速機が不要というシリーズハイブリッドの利点が損なわれます。
ではロータリーエンジンよりも熱効率にすぐれたSkyactiv-Gを使えばよいかというと、その場合、そもそもシリーズハイブリッドにする意味があるのかを考える必要があります。ハイブリッド車の利点は電力回生とそれによるモーターアシストと、そこから派生してエンジンにとって効率の良い領域に特化できることです。エンジン駆動をメインにすればマイルドハイブリッド、モーターを主たる動力源にするのがシリーズハイブリッド、エンジン駆動とモーター駆動の比率を自在に操作できるのがトヨタのTHSⅡです。エンジン駆動車の燃費においてTHSⅡに匹敵するものは存在しません。さらにいえば、エンジン駆動車で最も燃費が良いのがヤリスハイブリッドですので、単純に燃費だけを追求するならヤリスハイブリッドをOEM販売するのが最も効率的です(トヨタディーラーで買えるヤリスハイブリッドをわざわざマツダディーラーから買う物好きが一体どれだけいるのかはともかくとして)。
エンジンの熱効率の良い領域が広ければ、その分エンジンで直接駆動した方が熱効率が良いです。シリーズハイブリッドは電力回生できる一方で、エンジン直接駆動に比べて発電機とモーターによる熱損失が発生しますし、蓄電池製造時に温室効果ガスを排出しますし、そもそも蓄電池は高価です。
しかしそれでも定量的にはノートのWLTC燃費が28.4km/L、フィットハイブリッドのWLTC燃費が29.4km/Lなのに対し、Mazda 2の欧州向けマイルドハイブリッド車のWLTC燃費がMT車で21.3km/L、AT車で19km/L程度ですので、少なくとも燃費だけを比較する場合にはマイルドハイブリッドでは全然足りません。シリーズハイブリッドは高速域での燃費に不利とされていますが、ノートの高速道路モードのWLTC燃費は27.2km/Lであり、これはガソリンエンジン単体では達成できない水準です。75km/h以上でエンジン直接駆動に切り替えるフィットの高速道路モードのWLTC燃費は27.4km/Lですので、たしかにエンジン直接駆動の方が燃費が良いものの、コストを考慮すればノートの燃費もなかなかのものです。
ということを考えると、Skyactiv-Gによるシリーズハイブリッド車があってもよいのではないかと思えてきます。折しも1.5Lエンジンには燃費改善のための改良が施されたばかりですし、ラージプラットフォーム向けのPHEV車はロータリーエンジンではなく直列4気筒エンジンが採用されることが公表済です。