2022年1月19日水曜日

トヨタ車の出来が良くなってきた今、マツダ車の存在意義は何だろう

最近になって、トヨタレンタカーでいろいろなトヨタ車に乗るようになりましたが、TNGA世代になってからのトヨタ車の出来の良さに感心します。特に、意図した通りに走る曲がる止まるという車の基本性能が向上し、その部分についてはマツダ車と被っています。ハイブリッド車も、3代目プリウスのような燃費重視でまともに走らないセッティングとは違って、今では違和感なく加速できます。トヨタ車のアクセルペダルは吊り下げ式ですが、オルガン式に劣らない操作感で、そういうところにトヨタの底力を感じます。

こうなると、1人乗り2人乗りならもうヤリスハイブリッドでもいいのかなと思えてきます。現に、欧州向けではヤリスハイブリッドにマツダのバッジをつけるだけでそのまま売るようですし(ラリーで勝ちまくっている車として欧州で知名度の高いヤリスをわざわざマツダディーラーで買う物好きが一体どれだけいるのか知りませんが)。

アクセラハイブリッドはマツダのビジネスには全くインパクトを与えなかった反面、トヨタの車づくりには絶大なインパクトを与えたようで、今のトヨタの利益や時価総額が絶好調であることからすれば、マツダにとっては面白くないかもしれません。5年半前に、「トヨタがマツダの持っている良いものを認めて本気を出したらマツダなんてひとたまりもないのではないか」と書いたことがありますが、ある程度はその通りになっているような気がします。

しかし、落ち着いて考えてみると、マツダ車にあってトヨタ車にないものがいくつかあるようにも思えます。

1. デザイン

トヨタの豊田章男社長はご自身が走り屋ということもあってか「もっと良い車を」と号令をかけ続けていますが、どうやら「もっと美しい車を」という号令はかけていないようで、エクステリアデザインやインテリアデザインについてはマツダ車が優位を保っているように見えます。ただ、美しさと使い勝手の良さとの間にはトレードオフがあって、たとえばトヨタ車のナビのディスプレイは見た目は二の次で大きいですし、ナビの下やグローブボックスの上に小物置きがあったりしますが、マツダ車は美しさのために痩せ我慢しています。

2. 安全装備

今のところ、マツダ車の方が気前よく標準装備してくれています。今ではトヨタ車にもほぼ同様の装備がありますが、メーカーオプションになっていてその分値段が上がります。

3. 過渡領域の作り込み

これがマツダ車の最大の特長ではないかと思うものの、99%の精度を99.9%に詰めていくような、ある意味「違いが分かる男のゴールドブレンド」のようなものですので、一部の層には刺さるものの、大多数の人は気にしないのではないでしょうか。

ある程度は味付けの問題で、日本市場向けには道具に徹したさっぱりとした味付け、大柄な車が好まれる北米向けには鷹揚な味付け、速度域の高い欧州向けにはもう少し煮詰めたような味付けにする傾向がありますが、精度を高めて初めて可能な味もあります。

今のところマツダ車は実力以上に評価されるプレミアムブランドとは思えませんが、「これがマツダ車の乗り味だ」というのが認知されればスペシャルティ・カーくらいにはなれるかもしれません。

4. ドライバー優先の車作り

自動車が工業製品である以上、どのメーカーも人間を中心に据えるものです。一口に人間中心といっても様々な方向性があって、例えばホンダは「人間のための空間を広く、機械のための空間を小さく」という形で体現していますし、軽自動車メーカーは収納スペースを含めたスペースユーティリティーや、狭い駐車スペースでも乗り降りしやすいスライドドアを重視しています。トヨタは運転に不慣れな人、運転に興味のない人にもとっつきやすい車を作ることで車社会の間口を広げており、これはこれでれっきとした人間中心の車作りだと思います。

そのような中でマツダ車がドライバーの運転する楽しみを追求する会社であることは周知の通りです。あいにく日本では財布の紐を握っている人があまり運転する楽しみを追求しない傾向がありますので、それが市場シェアに反映されていますが。

5. 変態エンジン

ロータリーエンジンやSkyactiv-Xや小型車向けディーゼルエンジンといった他社にないエンジンを持っているのがマツダの独自性ですが、他社がやらないのにはそれなりの理由があるともいえます。ロータリーエンジンは発電用エンジンとして復活しそうですが、ロータリーエンジンの熱狂的なファンが求めているのは高回転まで吹け上がるスポーツエンジンであって、熱効率の良い領域で大人しく回り続ける発電エンジンに対して同じように熱狂できるかどうか定かではありません。Skyactiv-Xはもっとコストがこなれてこないと「違いがわかる男のエンジン」の域を出ません。しかしそんな不器用さを愛する人も中にはいるかもしれません。見方によっては、そのような実用性の伴わない物語性こそがプレミアムブランドの本質ともいえます。