2022年12月26日月曜日

日産自動車の電気自動車の値上げについて

2022年12月22日に日産自動車がリーフとサクラの値上げを発表したようです。メディア記事によればリーフの値上げ幅は最大で約100万円とのこと。

半導体不足による生産能力減少が原因ならより利幅の大きい製品の納期を変えずに利幅の小さい小型車の納期を長くするとか、利幅の大きい新製品を投入して利幅の小さい製品の改良を据え置くといったように、高額車の販売にシフトすることで実質値上げするのが定石です。マツダでは新たに投入したラージプラットフォームの販売に注力する一方で、BセグメントのMazda 2のフルモデルチェンジは後回しになっていて、欧州ではヤリスハイブリッドのOEM販売のみになりつつあります。今BセグメントをフルモデルチェンジしたらBセグメント購入層とマッチしない値段になってしまうからという可能性もありますが。マツダのラージプラットフォームはもともと利幅の大きい北米向けの車種を拡充させることが目的だったようですが、結果的に半導体不足による供給能力減への対応にも役に立っているようです。

同じ車種で値上げするにしても、装備を増やすなどしてより高額の商品にシフトするのが常で、全く同じ製品でカタログプライスだけを値上げするのは珍しいです。

自動車メーカーがなぜ同じ製品のカタログプライスの値上げをあまりしないかといえば、自動車というのは一回売ったらそれでおしまいの製品ではなく、人が一生のうちに何十年間も自動車に乗るからです。その長い付き合いの中で客の足元を見るような値上げをしたら嫌われてしまって、以降車を買ってもらえなくなるおそれがあります。短期的な値上げによって得るものよりも長期的な関係を失うことの方が大きいとの判断があるのでしょう。そのためフェアバリューの建前を維持しつつ、利幅の大きいフェアバリューに軸足を移す戦略が好まれるようです。

電気自動車の場合、主に蓄電池のコスト上昇による影響が大きいですが、普通の自動車メーカーなら電気自動車の販売台数が微々たるものですでの、電気自動車で赤字を出しても会社全体の財務への影響は僅少でしょう。

日産の場合は電気自動車の販売比率が他社よりも高いうえ、ガソリンエンジン車においても売れ筋の車といえばノート(含オーラ)とエクストレイルといったe-Powerの比率の高い車種しかありません。しかもノートは利幅の小さいBセグメント車です。セレナは日本では売れていますが、ミニバンは事実上日本専用車種です。そのため電気自動車の蓄電池コスト上昇の影響を他車種で吸収しにくい状況にあります。しかもリーフはともかくサクラは軽自動車市場で受け入れられるための戦略的な値付けをしていて売れ行き好調ですので、ただでさえ利幅が小さいのにコスト上昇で赤字になるおそれがあります。リーフはさほど数が出ていないとはいえ、サクラを大幅値上げする一方でリーフを値上げしなかったら電動化パワートレインのコスト上昇を理由にした値上げを正当化できませんので、リーフまで値上げせざるを得なくなったのでしょうか。日産はなまじ電動化を進めてきたせいで、電動化パワートレインのコスト上昇に対して脆弱な体質にあるのかもしれません。

しかしそれでも単純に値上げする以外の手段は無かっただろうかと思います。赤字覚悟で売りたくなければ生産を後回しにして納期を禁止的に長くするやり方もあり得たはずです。

また、電動化パワートレインといえばハイブリッド車比率の高いトヨタも同様であるはずですが、トヨタは電動化パワートレインのコスト上昇を理由にした値上げを今のところはまだ発表していません。車種のラインナップにせよ調達にせよ、日産は何らかの問題を抱えているように見えます。