2025年3月26日水曜日

マツダのストロングハイブリッドシステム

マツダのストロングバイブリッドシステムがどんな感じなのかを、「どうせTHSⅡをいじったものだろう」といい加減に予測したら見事に外しました。日経クロステックのインタビュー記事に概要が出ました。エンジンと変速機との間にモーターのあるパラレルハイブリッドとのこと。機器構成上はマイルドハイブリッドのモーター・発電機と蓄電池の容量を大きくしたような感じでしょうか。要は電力回生できて蓄電した電力でモーターアシストできればよいわけですから、あとは制御次第でしょうか。マツダ独自の方式でやるなら、シンプルなシステムでないと制御ソフトウェアの開発が追いつきそうにありません。

シンプルに制御するなら、モーターのトルクの大きい低速域ではモーター駆動(ただし蓄電池残量が十分にないときにはエンジン駆動)、ある程度速度が上がってきたらエンジンを始動して、モーターよりもエンジンの方が効率的な領域ではエンジン直結駆動といった感じでしょうか。減速時には原則として回生ブレーキを使い、連続下り勾配で蓄電池容量がいっぱいになったらエンジンブレーキに切り替えでしょうか。

エンジンの熱効率は自信があるようで、低負荷の一部領域を除くほぼ全域で熱効率の良い領域だとしています。もし本当にその通りにできるのでしたら電力回生で得られた電力でモーターを回す以外はエンジンで駆動する方が効率的で、わざわざエンジンで発電してからモーターを回すといった効率の悪いことをする必要がありません。ハイブリッド車は、エンジンが苦手な領域をモーターに肩代わりしてもらうことでエンジンの熱効率の良い領域だけを使って燃費を改善するものだからです。ただし、SKYACTIV-Zに特化したハイブリッドシステムにしてしまうと、もしSKYACTIV-Zがこけたら一蓮托生です。

従来の変速機はそのまま使うようで、マツダの6ATはCVTよりもレシオカバレッジが狭いせいで高速道路モード燃費すらCVT車に負けていますが、低速域でのモーター駆動を前提にハイギアードにするのではないかと予想します。電気モーターはゼロ回転から最大トルクを出す一方で高回転に弱いので、電気モーターは低速域に特化した方がよいでしょう。また、モーター回転数を抑えるためにはなるべくハイギアードにした方が有利です。

燃費の数字は公表されていませんが、カローラハイブリッドの実燃費が25km/Lくらいですので、Cセグメントならこれくらい、一回り大きいCX-5なら20〜25km/Lくらい出れば合格でしょう。SKYACTIV-G1.5を積むMazda 3の1.5Lの実燃費がなんと20km/Lくらい。エンジン自体の熱効率向上と電力回生で25km/Lをクリアするのはそんなに難しくなさそうです。Mazda 3の2Lの実燃費は15km/Lくらいですので、そこを起点にすると相当がんばらなければなりませんが。

ハイブリッド無しの廉価版の場合、モーターアシストによってハイギアードにすることができませんので、高速域での燃費を犠牲にしてローギアードにするのでしょうか。たまにしか高速道路を走らない人にとってはそれで十分だったりします。それでも、エンジン単体で1.5Lターボ相当だとすれば、Mazda 3の1.5L車相当の燃費とMazda 3の2L車相当のパワーを獲得できそうです。

2025年3月23日日曜日

もしSKYACTIV-ZをBセグメント車に積むなら

SKYACTIV-Zは2.5Lエンジンで、CX-5では2027年にハイブリッド車として登場することになっています。おそらくスモールプラットフォームの標準エンジンになるでしょうから、Mazda 3やCX-30といったCセグメント車にはハイブリッド車として搭載されるでしょうし、もしかしたら廉価版としてエンジンだけのタイプも出てくるかもしれません。マツダは、SKYACTIV-Zは、SKYACTIV-GはおろかSKYACTIV-Xよりも熱効率の良い領域(いわゆる目玉の領域)が広いとしており、アイドリング以外のほぼ全域で熱効率が良いとしていますので、もし本当にそうであれば、モーターアシスト無しでエンジン単独で駆動するのも問題なさそうです。

ヤリスハイブリッドと普通のヤリスはともに1.5Lガソリンエンジンを積んでいますが、動力性能はどちらも同じくらいで、走りだけなら普通のガソリンエンジン車でもよいのではないかと思えてきます。ガソリンエンジン車にはモーターアシストも電力回生もありませんので、燃費性能ばかりはどうにもなりませんが。2.5LのSKYACTIV-Zはおそらく1.5Lターボエンジン相当の性能なのではないかと予想していますが、1.5LターボエンジンはBMWの1シリーズやMINIといったBMWのFF車では広く採用されていますので、Cセグメント車の重量であればエンジン単独で走るのでも動力性能に不足はないでしょう。ただし、エンジン単独で走るためには変速機が必要で、今のFF車向けの6ATではCVTよりもレシオカバレッジが狭いため、高速道路モード燃費がCVT車に負けるという情けないことになっています。燃費性能の水準が底上げされることで高速道路モードの燃費が気にならなくなればよいのですが。

そもそもマツダがBセグメント車を新たに開発するかどうか不確かですが、パワートレインが同じであれば車両重量が軽ければ軽いほど燃費で有利です。Bセグメント車であってもエンジンルームにスペースを取ることさえできればハイブリッド無しでエンジンだけ積むのはありなのではないでしょうか。現在Mazda 2のエンジンは1.5L自然吸気エンジンですので、ハイブリッドなしでも動力性能は十分にありそうです。燃費を良くするためには排気量を増やすのが一番簡単で、かつて人見氏はインタビューにおいて、「デミオに最も適したエンジンは2.5L」と発言されていました。排気量に余裕を持たせた分を燃費向上に振り向ければ、Cセグメントのガソリンエンジン車よりも燃費が良くなりそうです。Bセグメント車は価格を抑えるためにコストを抑える必要がありますが、ありもののエンジンをポン付けするだけが最もコストが安そうです。

もっとも、Bセグメント車ではストップアンドゴーが多いことが想定されますので、電力回生で燃費性能を稼ぐ方が燃費が良くなりそうですのです。しかし、Bセグメント車にCX-5と同じ2.5Lエンジン(実質1.5Lエンジン相当であっても)+ハイブリッドではオーバースペックな印象を受けますし、Bセグメント車にCX-5並のコストをかけられるとも思えません。廉価版はSKYACTIV-Zのエンジンのみのグレード、上級グレードは省スペースのロータリーエンジン+シリーズハイブリッドだったりするのでしょうか。欧州で売るためには高速道路での動力性能や燃費性能も必要ですので、果たしてシリーズハイブリッドで大丈夫なのかとか、ロータリーエンジン自体の熱効率はどうなのかといった問題がありますので、ロータリーエンジン+シリーズハイブリッドはすぐには出せないのではないかと予想します。

マツダはSKYACTIV-Zの技術をラージプラットフォームのエンジンやロータリーエンジンにも応用するとしていますので、燃費性能の向上したロータリーエンジンが楽しみです。ロータリーエンジンは燃焼室の形状がいびつですので火花着火では燃焼効率に限界がありますが、もしロータリーエンジンで圧縮着火を実現できれば、ロータリーエンジンの弱点の一つを解消できそうです。

2025年3月19日水曜日

SKYACTIV-Zはどのようなエンジンなのか

2025年3月18日にマツダは「マツダ、電動化のマルチソリューションを具現化する「ライトアセット戦略」を公表」というプレスリリースを発表しました。その中ではSKYACTIV-Zにも触れられています。

まず、SKYACTIV-Zは2027年にCX-5のハイブリッド車用のエンジンとして搭載されるとあります。エンジンのシルエットは、たしかに直列4気筒エンジンの右側に出っ張りがあり、形からしてハイブリッドシステムであると予想できます。

前から出ているSKYACTIV-Zの売り文句は「λ1燃焼」と「超希薄燃焼」というもので、前者は理想空燃比燃焼のことですが、理想空燃比燃焼と超希薄燃焼というのは国語的に両立しがたいです。しかし「過給しない」と読み替えれば、ごく普通の超希薄燃焼であり、それは燃料噴射量を絞れば可能です(それでしっかり燃焼させるのは簡単ではありませんが)。ただしそれではパワーが出ませんので排気量を拡大することが予想されます。プレゼン資料の中には「排気量拡大」という言葉も記載されています。SKYACTIV-Xのようにわざわざスーパーチャージャーをつけて可変排気量にするくらいでしたら、最初から排気量を拡大する方が圧倒的にコストが安いです。ボアとストロークが少し大きくなるだけですのでタダみたいなものです。排気量拡大による燃費向上は、既にラージプラットフォーム向けの3.3Lディーゼルエンジンで実現しています。また、排気量を拡大すれば壁面からの熱損失を低減することができます。SKYACTIV-Zでは遮熱に取り組んだとされていますが、他にどのような手段で遮熱に成功したかはまだ公表されていませんのでわかりません。素人考えでは、エンジンの物理的な断熱は既にSKYACTIV-Xで実現していますので、これ以上改善するとしたらエンジン冷却水の制御を最適化することでエンジン冷却に伴う熱損失を低減できるものだろうかと思いますが。

CX-5向けのエンジン排気量は2.5Lとあります。これは現行CX-5のガソリンエンジンの排気量と同じです。Mazda 3も北米版と欧州版では2.5Lです。排気量を拡大して2.5Lにしたのでしたら、実質1.5Lエンジンなのか2Lエンジンなのか知りませんが、たしかに単体ではCX-5にはパワーが不足します。そこでハイブリッド車としてモーターアシストすれば出力の不足を補えそうです。電動化を前提に小型化すれば、排気量拡大と小型化とが相殺して、結局普通のサイズになります。高速道路では電気モーターはあまり役に立ちませんが(電気モーターは回転数が上がると逆起電力により回転数が伸び悩む)、そういうときには普通の火花着火の自然吸気2.5Lエンジンとして使えばよいわけです。速度域の高い欧州では高速域での燃費が重要で、そうなると電動化だけでは対応しきれませんので、エンジン自体の熱効率向上も求められるでしょう。排気量を変えずに可変排気量エンジンと同じことを実現するのでしょうか。一方、低負荷では圧縮着火による希薄燃焼を活用して燃料噴射量を極端に絞るのでしょうか。トルクが不足する分は電気モーターで補えばよいわけです。マツダのSCPPIでは圧縮着火と火花着火とを連続的にコントロールできますので、負荷や回転数ごとに燃料噴射と火花着火のマッピングを精緻化しているのかなといい加減に推測しますが、詳しいことはわかりません。SKYACTIV-Xの頃に比べればAI技術も発達しているでしょうし、Xでのデータも蓄積していますから、Xの頃にできなかったことができるようになったのかもしれません。

圧縮比がどうなるのか気になるところです。圧縮着火なら圧縮比が高い方が有利ですが、火花着火ではノッキング防止のために圧縮比に上限があります。SKYACTIV-Xの圧縮比は15、SKYACTIV-Gの圧縮比は13〜14です(欧州レギュラーガソリン仕様で圧縮比14、日本レギュラーガソリン仕様で圧縮比13、ただしMazda 2の1.5Lエンジンは渦燃焼により日本レギュラーガソリン仕様でも圧縮比14を実現)。圧縮比14と15との間のギャップを埋めることができれば火花着火と圧縮着火とを両立できるわけです。SKYACTIV-Xの圧縮比15に寄せることができれば燃費が良くなりそうです。

SKYACTIV-Zと組み合わされるマツダ独自のハイブリッドシステムがどのようなものであるかもまだ公表されていません。素直に考えればスクラッチから開発する余裕はないでしょうから、トヨタが開放しているTHSⅡの技術をベースにマツダのエンジンに合わせて最適化したものではないかと推測します。THSⅡはトヨタのエンジンに最適化されていて、同じシステムを使うと結局トヨタのエンジンと同じ仕様に収斂してしまうためです。そのままではマツダ独自に高効率エンジンを活かすことができません。といっても、ハードウェアは同じで、エンジンと一体で制御ソフトウェアを開発しているのではないでしょうか。THSⅡベースのシステムなら変速機としての機能もあります。従来の変速機を積む必要がなくなりますし、6ATではレシオカバレッジがCVTよりも狭くて、高速域での燃費を改善できませんので、ATを刷新する代わりにハイブリッドを積むのはありではないでしょうか。ハイブリッドシステムとの組み合わせで全体としてどのようなシステムになるのか楽しみです。

2025年3月18日火曜日

もしかして現在のマツダ車の操縦安定設計思想のもとではエアサスペンションが向いているのだろうか

マツダの第7世代車の操縦安定設計思想は、車体の左右動を抑え込むことで体が左右に揺さぶられることを防ぐことと、車体が人間の直感に反した不自然な動きをすること防ぐことが重視されています。従来は路面からの入力で発生する力を後ろに逃がしていましたが、そうすると車体がフワフワします。車体をフワフワさせなければ路面からの入力は上下動という形で直接車体に入ってきます。人間の体は上下動には適応できるので揺れが一発で収束する方がよいとか、骨盤を立てて座れば気にならないとかいうものの、それでも気になる人にとっては気になるでしょう。

鉄道車両では旅客車についてはだいぶ昔から空気ばね台車(エアサスペンション)が常識です。一方、自動車でエアサスペンションを採用しているのは、一部の高級車と、精密機械や美術品といったデリケートなものを運ぶトラックや、高速バスに限られています。空気バネ台車の電車とコイルばね台車の電車(昔の国鉄103系や113系)とを乗り比べると、空気バネ台車の方が路面からのゴツゴツした入力が緩和されています。かつて小田急で長らく採用していたアルストムリンク式(平行リンク式)の台車は、軌道が悪いと路面からの入力がゴツゴツするという理由で他社では廃れましたが、小田急では空気ばね台車との組み合わせで相性が良いという理由で、小田急だけは長らく採用していました。小田急は軌道が良いこともあって、上下動が小さく、氷の上を滑るような乗り心地でした。

鉄道車両の台車の軸箱支持方式には様々なものがありますが、そこで共通しているのは軸箱の前後動を抑えつつ上下動だけさせるというものです。この辺りも現在のマツダ車の操縦安定設計思想に類似していいます。安価なものは摺板で支持するペデスタル式ですが、高価なものだと円筒案内式だったり、最近の主流はトーションビーム式に類似の軸梁式やリンク式です。鉄道車両の車輪は車軸式ですので、左右動の考慮は不要です。

でしたら、マツダ車にエアサスペンションを採用すれば、劣後されてしまったハーシュネスの解消の役に立つのではないでしょうか。さすがに安いスモールプラットフォームに高価なエアサスペンションを採用したらコストが合わないでしょうが、ラージプラットフォームの車には600万円とか700万円とかするものもあるのですから、その値段にふさわしい乗り味の車があってもよいのではないでしょうか。