まず、SKYACTIV-Zは2027年にCX-5のハイブリッド車用のエンジンとして搭載されるとあります。エンジンのシルエットは、たしかに直列4気筒エンジンの右側に出っ張りがあり、形からしてハイブリッドシステムであると予想できます。
前から出ているSKYACTIV-Zの売り文句は「λ1燃焼」と「超希薄燃焼」というもので、前者は理想空燃比燃焼のことですが、理想空燃比燃焼と超希薄燃焼というのは国語的に両立しがたいです。しかし「過給しない」と読み替えれば、ごく普通の超希薄燃焼であり、それは燃料噴射量を絞れば可能です(それでしっかり燃焼させるのは簡単ではありませんが)。ただしそれではパワーが出ませんので排気量を拡大することが予想されます。プレゼン資料の中には「排気量拡大」という言葉も記載されています。SKYACTIV-Xのようにわざわざスーパーチャージャーをつけて可変排気量にするくらいでしたら、最初から排気量を拡大する方が圧倒的にコストが安いです。ボアとストロークが少し大きくなるだけですのでタダみたいなものです。排気量拡大による燃費向上は、既にラージプラットフォーム向けの3.3Lディーゼルエンジンで実現しています。また、排気量を拡大すれば壁面からの熱損失を低減することができます。SKYACTIV-Zでは遮熱に取り組んだとされていますが、他にどのような手段で遮熱に成功したかはまだ公表されていませんのでわかりません。素人考えでは、エンジンの物理的な断熱は既にSKYACTIV-Xで実現していますので、これ以上改善するとしたらエンジン冷却水の制御を最適化することでエンジン冷却に伴う熱損失を低減できるものだろうかと思いますが。
CX-5向けのエンジン排気量は2.5Lとあります。これは現行CX-5のガソリンエンジンの排気量と同じです。Mazda 3も北米版と欧州版では2.5Lです。排気量を拡大して2.5Lにしたのでしたら、実質1.5Lエンジンなのか2Lエンジンなのか知りませんが、たしかに単体ではCX-5にはパワーが不足します。そこでハイブリッド車としてモーターアシストすれば出力の不足を補えそうです。電動化を前提に小型化すれば、排気量拡大と小型化とが相殺して、結局普通のサイズになります。高速道路では電気モーターはあまり役に立ちませんが(電気モーターは回転数が上がると逆起電力により回転数が伸び悩む)、そういうときには普通の火花着火の自然吸気2.5Lエンジンとして使えばよいわけです。速度域の高い欧州では高速域での燃費が重要で、そうなると電動化だけでは対応しきれませんので、エンジン自体の熱効率向上も求められるでしょう。排気量を変えずに可変排気量エンジンと同じことを実現するのでしょうか。一方、低負荷では圧縮着火による希薄燃焼を活用して燃料噴射量を極端に絞るのでしょうか。トルクが不足する分は電気モーターで補えばよいわけです。マツダのSCPPIでは圧縮着火と火花着火とを連続的にコントロールできますので、負荷や回転数ごとに燃料噴射と火花着火のマッピングを精緻化しているのかなといい加減に推測しますが、詳しいことはわかりません。SKYACTIV-Xの頃に比べればAI技術も発達しているでしょうし、Xでのデータも蓄積していますから、Xの頃にできなかったことができるようになったのかもしれません。
圧縮比がどうなるのか気になるところです。圧縮着火なら圧縮比が高い方が有利ですが、火花着火ではノッキング防止のために圧縮比に上限があります。SKYACTIV-Xの圧縮比は15、SKYACTIV-Gの圧縮比は13〜14です(欧州レギュラーガソリン仕様で圧縮比14、日本レギュラーガソリン仕様で圧縮比13、ただしMazda 2の1.5Lエンジンは渦燃焼により日本レギュラーガソリン仕様でも圧縮比14を実現)。圧縮比14と15との間のギャップを埋めることができれば火花着火と圧縮着火とを両立できるわけです。SKYACTIV-Xの圧縮比15に寄せることができれば燃費が良くなりそうです。
SKYACTIV-Zと組み合わされるマツダ独自のハイブリッドシステムがどのようなものであるかもまだ公表されていません。素直に考えればスクラッチから開発する余裕はないでしょうから、トヨタが開放しているTHSⅡの技術をベースにマツダのエンジンに合わせて最適化したものではないかと推測します。THSⅡはトヨタのエンジンに最適化されていて、同じシステムを使うと結局トヨタのエンジンと同じ仕様に収斂してしまうためです。そのままではマツダ独自に高効率エンジンを活かすことができません。といっても、ハードウェアは同じで、エンジンと一体で制御ソフトウェアを開発しているのではないでしょうか。THSⅡベースのシステムなら変速機としての機能もあります。従来の変速機を積む必要がなくなりますし、6ATではレシオカバレッジがCVTよりも狭くて、高速域での燃費を改善できませんので、ATを刷新する代わりにハイブリッドを積むのはありではないでしょうか。ハイブリッドシステムとの組み合わせで全体としてどのようなシステムになるのか楽しみです。