欧州ではSkyactiv-G 2.0は出力120PSに抑えられていてSkyactiv-G 120と呼ばれています。Skyactiv-G 2.0の性能曲線をもとに最高出力を120PSに抑えると、だいたい4000回転くらいで燃料噴射を絞ってトルクを落とします。しかしSkyactiv-G 2.0の最大トルクは4000回転未満で発生しますので、4000回転以上回さなければ実用上問題ないということになります。元祖ダウンサイジングターボのVWはシフトチェンジの速い多段変速機を採用して極力ギアを高くすることでエンジン回転数を抑えることで、ダウンサイジングターボが苦手とする高回転域を避けています。マツダもVWとは別のアプローチでシフトチェンジの速い多段ATを採用しています。
公道で普通に運転する上で重要なのは最高出力よりも低回転でのトルクですが、わざわざターボをつけなくても、排気量を大きくしてエンジン制御ソフトウェアをいじって出力を絞るだけでダウンサイジングターボに似たような出力特性を実現できます。エンジン排気量が一回り大きくなっても製造コストに大差なく、ターボが不要な分だけむしろコスト競争力があります。また、自然吸気エンジンの方が高負荷域での燃費が良いというのがマツダの主張です。
1.5LエンジンのSkyactiv-G 100も同様に5000回転以上で出力を絞っていますが、トルクのピークは3000回転くらいですので、これも実用上問題ありません。車体の重いアクセラに1.5Lエンジンを組み合わせると、低負荷時には2000回転くらい、発進時や上り坂の高負荷時には3000回転くらいになりますが、3000回転になる頻度は高いものの、公道を普通に運転している限り4000回転を越えることはありません。Skyactiv-G 100は出力の割に低回転域のトルクが太くなり、1.2Lターボエンジンと同じような出力特性になります。
CX-3ならアクセラよりも100kg軽いので、日本の公道の速度域なら1.5Lエンジンでも十分に見えますし、競合するホンダヴェゼルや日産ジュークも廉価版は1.5L自然吸気ガソリンエンジンを採用しています。表面的な数字を見る限りでは、CX-3にガソリンエンジンの廉価版を投入するとしたら競合と同じく1.5L自然吸気エンジンを採用するのが順当に思えます。
仮にCX-3に1.5Lガソリンエンジンを採用しないとしたら、そのエンジン特性によるものではないかと想像します。アクセラ場合、普通にアクセルを踏むだけだと非力な車でしかありませんが、マツダの1.5Lエンジンは1000回転から2000回転にかけてはトルクがフラットな一方で、2000回転から3000回転にかけて急激にトルクが太くなりますので、加速力が必要になったら積極的にアクセルを踏み込んで3000回転くらいでパワーを引き出して走ると楽しい車です(特に低いギアで引っ張れるMT車ならなおさら)。そういう走りが楽しいのはそれを支える足回りあってのものですが、ひるがえってCX-3を見てみると、町中をおとなしく走る分にはすこぶる快適である反面、無駄に太いタイヤのせいか足回りが犠牲になっていて、積極的にアクセルを踏み込んで走る気になれません。マツダの1.5Lエンジンだと2000回転くらいでパワーが足りないとすぐにキックダウンで3000回転に上がってしまいますので、せわしない印象があります。自らの意思でアクセルを踏み込んで回転数を上げるのでしたら苦になりませんが、普通に走りたいだけなのにむやみにエンジン回転数が上がると非力な印象ばかりが残ります(アクセラ1.5Lもワインディングでは楽しい車ですが、高速道路を走る頻度が高い場合には同様の理由によりおすすめできません)。むしろ低い回転数で余裕を持って走れるトルクの太いエンジンの方がCX-3という車のキャラクターに合っているのかもしれません。
かといって素の2Lエンジンのままでは価格競争力がありません。そこで欧州仕様と同様に120PSに出力を落とせば115PSの1.5Lエンジンと見かけ上の出力はほぼ同じになりますので値段を下げやすいですし、低回転域でのトルクの太いダウンサイジングターボエンジンのような出力特性になります。これなら低負荷時には1000回転くらい、少し負荷が上がっても2000回転くらいで走れますので、ゆったりとした走りが実現できます。2Lエンジン搭載でも200万円台前半くらいに値段を抑えられますので、ある程度は割高感を払拭できるでしょうし、エンジンルームが小さくて大きなエンジンを積めないデミオとの違いも明確に出せます。