2018年2月7日水曜日

G-ベクタリング・コントロールは何が効いているのか

今までの経験上、G-ベクタリング・コントロール付の車に乗ると高めの速度でコーナーに突っ込んでも意外と曲がれてしまいます。本来、遠心力は走行速度と曲線半径によって一意に決まるもので、遠心力がタイヤのグリップ力を超過すれば当然曲がれませんので、G-ベクタリング・コントロールがあろうが無かろうが曲がれる速度は同じであるはずです。

しかし実際には車内には0.01Gから0.05G程度の微小な揺れが常に発生していて、それはG-Bottleを置いてみたりGモニターを表示させたりすれば可視化できます。路面の細かい凹凸によって振動が発生しますので、震動による揺れ自体を無くすことはできません。その揺れは直進時にも曲線通過時にも発生していて、曲線通過時には遠心力による横Gに加えて、揺れによる横Gも発生しています。路面の凹凸は左右の前輪に前後方向の力を加えるだけでなく、左右の前輪にかかる荷重が変化すればタイヤのグリップ力も変化しますので、左右のタイヤのグリップ力の差異によってコーナリングフォースが発生します。これが横Gになるわけです。揺れによる横Gが加わった状態で限界を越えないのが曲がれる速度になりますので、揺れのせいでコーナリング性能を無駄にしていることになります。曲線通過時の横Gが0.2Gの場合と0.25Gの場合とでは体感速度がかなり違います。

しかも、遠心力による横Gはコーナーに入るにつれて徐々に大きくなるものですから同乗者にも予測しやすく身構えやすいのにに対し、常に発生する揺れを個々の振動レベルで予測して身構えることは不可能です。同乗者が揺すられなくなるのはこの余計な揺れが無くなるためでしょう。実際、G-ベクタリング・コントロールでコントロールしている加速度は通常は0.01G、最大でも0.05Gとのことで、何を打ち消そうとしているかが見て取れます。

尚、コーナー手前で減速してコーナー出口で加速するというマクロレベルのコーナリングについては、そもそも減速時にはアクセルオフですのでエンジントルクの制御によってコントロールすることは不可能です。コーナリングで最も難しいのは減速のタイミングですので、ここを制御できないということはマクロレベルのコーナリングをエンジントルクによって制御することはできないということです。

ところで素朴な疑問なのですが、G-ベクタリング・コントロールは車速とステアリング切り角のみから最適なエンジントルクを計算しているとありますが、どういうロジックで計算しているのでしょう。車速を時間で微分すれば加速度を計算できますし、それをさらに時間で微分すれば躍度を計算できます。また、ステアリング切り角を時間で微分すれば変化率を計算できます。また、車速とステアリング切り角から本来発生すべき横Gを計算できます(ステアリング切り角が0のときには横Gが0であるべき)。市販車は弱アンダーステアですので、曲線内側に逸脱している場合にはエンジントルクを増やして車体を曲線外側に向ける必要がありますし、逆に曲線外側に逸脱している場合にはエンジントルクを絞って車体を曲線内側に向ける必要があります。しかしこの際、前後方向の速度データだけではどちらの方向に逸脱しているかわからないように思えるのですが、どうやって識別しているのでしょう。

曲線が内側に寄れば直進方向のベクトルが僅かに短くなり、逆に曲線が外側に寄れば直進方向のベクトルが僅かに長くなることから、これを車速の変化として識別しているのではないかと推測します。では直進時にはどうかというと、そもそも実際の道路には完全な直線というものはほとんど存在しませんし、たとえ完全な直線であってもステアリング切り角が厳密に0ということはありえなくて、直進しているときですら小さな修正舵を当てることで半径の大きな左カーブと右カーブを交互に走っていることになります。となれば車は常に曲線上を走っていることになります。

前後方向の揺れについては簡単で、曲線での左右方向の逸脱を補正してもなお本来あるべき位置よりも前に出ていればエンジントルクを絞り込んで後ろに下げればよいですし、逆に本来あるべき位置よりも後ろに下がっていればエンジントルクを増やして前に出せばよいことになります。実際には左右方向の揺れと前後方向の揺れがありますので、それぞれ合算して最適なベクトルを算出するのでしょう。だからこそベクタリング・コントロールとなるのではないかと想像します。