2015年11月30日月曜日

UKで1.5LディーゼルエンジンのMazda 3発売へ

UKで1.5LディーゼルエンジンのMazda 3が発売されるという記事を見かけました。裏を取ろうとMazda UKのサイトでプレスリリースを探したのですが、あいにく見つかりませんでした。もし本当ならいずれ正式に発表されるだろうということで記事を読んでみると、

  • 出力は103hp (105ps)
  • 最大トルクは270Nm
とCX-3と同様とのことです。Mazda 3の車重からすれば、過給圧を上げて変速機容量の上限までトルクを太くするのは当然でしょう。他には
  • 時速100kmまでの加速に要する時間は11秒(Mazda 3の1.5Lガソリンモデルよりも遅い)
  • 最高速度は時速187km
  • CO2排出量は99g/km
  • 燃費は74.3mile per gallon UK(26.3km/L)
といった記載がありました。欧州複合モード燃費は測定する速度域が高いため、ストップアンドゴーに弱く高速巡航に強いディーゼルエンジン車に有利な数字になります。JC08モード燃費だとCX-3よりも重い分、数字が悪くなるのではないかと想像します。最高速度はデミオと同じです。エンジンと変速機は同じものを使っており、車輪外径や最終減速比の違いを考慮しても、同じくらいハイギアードであることが見て取れます。

肝心の重量に関する記載はありませんでしたが、デミオのガソリンエンジンとディーゼルエンジンとの重量差から推測すると、AT車で1360kgくらい、MT車で1340kgくらいでしょうか。デミオよりも230kg、CX-3よりも100kgくらい重くなりそうです。CX-3のAWDのAT車が1340kgですので、それとほぼ同じ重量です。デミオディーゼルのAWDのAT車が1220kgですので、それよりは100kg以上重くなりそうです。CX-3のFF車よりも100kg重いということは、ほぼリアサスペンションの重量差で説明できそうです。

Mazda 3の1.5Lガソリンエンジン車と比べて前輪の荷重のみ100kgほど大きくなりますので、前輪860kg、後輪500kgで、前輪への荷重が63.2%くらいとなり、デミオディーゼルのようにに極端にフロントヘビーにはなっておらず、むしろFF車としては標準的な数値ではないでしょうか。これは、リアサスペンションがトーションビームでなくマルチリンクで、後輪への荷重が大きいからでしょう。ディーゼルエンジン搭載車の割には前後の重量バランスは良い方だと思います。デミオディーゼルにおける「峠では頭が重すぎ、高速道路ではお尻が軽すぎる」という問題は後輪の荷重が大きくなることで解決しそうです。しかしそれでも2Lエンジン車よりも50kgほどフロントヘビーです。

パワーに関しては排気量なりでしかなく、日本仕様の1.5Lガソリン車の115psよりもさらに低いです(UK仕様の1.5Lガソリン車は100psなので、それよりは高い)。デミオディーゼルやCX-3に搭載されている中容量の変速機はハイギアードですので、デミオですら俊敏さを欠きます。トルクが太くで俊敏でないというのがどういう感じかというと、加速を意図してアクセルを踏み込んでから実際に意図した通りに加速するまで一呼吸くらいのラグがあります(ターボラグではない)。マツダでは「0.3秒の溜め」が意図した通りの加速感に必要としていますが、0.3秒どころではありません。デミオよりもはるかに重いMazda 3ならなおさらでしょう。一方、一旦意図した加速度に到達すれば、そのまま力強く加速します。

もともとアクセラに1.5Lディーゼルエンジンを搭載することには懐疑的だったのですが、エンジンの制御を変更して出足の鈍さを改善すればどうにかなるということなのでしょうか。あるいは、加速が必要な場面ではシフトダウンすればある程度は解決しますので、MT社会のヨーロッパならさほど問題ないということでしょうか。その代わり、太いトルクでゆったりと走ることはできるでしょう。どのみち自動車が公道で常識的に走る限りフルパワーで走ることはありませんので、実用上は問題ないのかもしれません。

正式発表前で詳細な仕様が開示されていないため、ホイールサイズやタイヤサイズに関する情報を拾うことができませんでした。1.5Lガソリンエンジン車と同じ205/60R16なのか、2Lガソリエンジン車や2.2Lディーゼルエンジン車と同じ215/45R18気になります。ホイールサイズが小さくて軽い方が出足が良いので、出力が不足するなら16インチの方が扱いやすそうです。ディーゼルエンジンは高価だからという理由で18インチホイールにすると、高速域でのどっしりとした乗り心地は得られるものの、出足は鈍くなりそうです。CO2排出量の少ないエコカーとして売り出すなら転がり抵抗の小さい16インチの細いタイヤでもよいのではないかという気がします。

15インチホイールのデミオXDのAWD車に乗ってみた際には、同じ出力のエンジンで車体重量が増えたにも関わらず、ホイールが軽いことでむしろ出足が軽くなりました。高速域での加速も意外と伸びました。その代わり高速道路ではふわふわしました。Mazda 3の場合、16インチよりも18インチの方が高速安定性は良いものの、UKの高速道路の制限速度は時速70マイル(時速112km)ですので、16インチでも高速安定性が不足することはないでしょう。いずれにせよ、Mazda 3の車輪外径はCX-3の車輪外径よりも少し小さめです。あとは最終減速比の情報が開示されればどの程度よく走るのは読めるのですが。

CX-3との比較では魅力的かもしれません。Mazda 3の1.5Lディーゼルエンジン車の値段はCX-3の1.5Lディーゼルエンジン車はCX-3の2Lガソリンエンジン車の値段とほぼ同じです。同じ値段ならMazda 3の方が足回りがしっかりしていますし、重心が低い分、曲がる上でも有利です。Mazda 3の方が装備が充実していますし、後席や荷室もCX-3よりもMazda 3の方が広いので、使い勝手が良さそうです。

しかし、Mazda 3の2Lエンジン車と比べると、2Lガソリンエンジン車よりも高い値付けです(もちろん2.2Lディーゼルエンジン車よりは安い)。2Lガソリンエンジン車よりも高く、フロントヘビーで、俊敏さに必要なパワーもありません。しかもUKではガソリンよりも軽油の方が高いです。ディーゼルエンジンなら長距離をゆったり乗れるといっても、ロンドンから高速道路を2時間も走ればもうウェールズです。スコットランドまで乗っても7時間です(実際にはLCCを使う方が早くて安い)。

ヨーロッパでは税金や保険料が出力によって決まる面もあり、トルクが太くてパワーの小さい車は実用性を損なわずに節税できる商品としては魅力があります。小型車でダウンサイジングターボが好まれるのも税制上の動機があります。2.2Lディーゼルエンジン車も日本仕様の175psに対してUK仕様や欧州仕様では150psに減格されており、低回転域のトルクはそのままで、高回転域でのトルクを絞っているようです。同様に1.5Lガソリンエンジン車は100psに、2Lガソリンエンジン車は120psに減格されていますし、Mazda 2の1.5Lガソリンエンジン車も75psや90psに減格されています。

高速巡航に強いディーゼルエンジンだけあって、計測速度の高い欧州複合モードでのカタログ燃費も良好です。しかし、ガソリンターボや高回転域でのトルクの抑制ならまだしも、高価なディーゼルエンジンを搭載すれば価格差が生じますし、UKでは軽油の方が高いため、トータルコストの面でメリットがあるように思えません。

しいて言えば、ダウンサイジングターボを持たないマツダにおいて、ダウンサイジングターボ的な走りのできるエンジンとしての意義ならあるのでしょう。そもそもダウンサイジングターボエンジン自体が、技術的に困難な小型クリーンディーゼルエンジンの代替品としての側面がありますので、小型クリーンディーゼルエンジンがあれば、それを導入すれば済むことです。

ストップアンドゴーの少ない欧州でなら俊敏さはさほど求められないでしょうし、代わりに低出力高トルクの車が好まれるでしょうし、実際、低負荷領域でトルクの太いダウンサイジングターボが好まれますので、欧州の道路や税制にはマッチしているのかもしれません。一方、速度域が低くストップアンドゴーが多く速度制限箇所の多い日本の道路では、低出力ディーゼルエンジン車は重くて出足が鈍く燃費も悪いという欠点ばかりが目立ちますので、日本市場向けに1.5Lディーゼルエンジンを載せられるのはCX-3のサイズまでで、アクセラに載せるとしたらやはり2Lガソリンエンジンと遜色ない1.8Lクラスが必要なのではないかと考えます。