2016年1月2日土曜日

デミオ15S Touringは可能か

デミオ13S Touringの発売が発表されましたが、高速道路メインならパワーに余裕のある1.5Lエンジンの方が、同じパワーやトルクを出すのに必要なエンジン回転数が少ない分だけ走りやすいのではないかと思いました。日本仕様には1.5Lガソリンエンジン車がありませんが、海外向けには1.5Lガソリンエンジン車がありますし(しかも欧州仕様だとRON95のガソリンに合わせて圧縮比14)、日本向けでも15MBならありますので、1.5Lガソリンエンジンを積むこと自体は物理的には可能です。1.3Lエンジンと同じ重量ですし、製造コストもほぼ同じです。

1.5Lガソリンエンジンを積むことで期待されるメリットは以下の通りです。

  • 最終減速比を下げて高速域でのエンジン回転数を落として静粛性を向上することができる(15MBは逆に13SのMT車よりも最終減速比を上げてスポーツ走行向きになっています。そのため15MBのJC08モード燃費は13SのMT車よりも1割ほど悪化していますが、反対に最終減速比を下げれば燃費はさほど悪化しないのではないかと推測します)
  • パワーの余裕を活かして16インチホイールを履いて高速安定性を高めることができる
  • 同じ1.5Lエンジンを搭載するアクセラよりも200kg軽量なので俊敏に走る(前-50kg、後-150kgくらい?)
  • 1.5Lディーゼルエンジン車よりもフロントが軽いので曲がりやすい(15MBと13Sは同じ重量なので、ディーゼルエンジン車よりも前輪への荷重が100kg軽い)
  • 1.5Lディーゼルエンジン車よりもエンジンの特性上俊敏に動くので街乗りでも快適
  • 1.5Lディーゼルエンジン車のような圧倒的なトルクは無いものの、高速巡航のみに特化したXD Touringに比べて日本の公道の広い範囲で素直で扱いやすい
DEデミオ時代には1.5Lエンジン車は全然売れませんでしたが、DJデミオはDEデミオの4ATに対して6ATですので高速域で余裕がありますし、内装や静粛性も向上していますので、高速域向けのグレードがあってもよいのではないかという気もします。

しかし、本体カタログ価格ベースで13Cが1,350,000円、同じ装備で1.5Lエンジンの15MBが1,501,200円(1.5Lエンジンで+15万円)、13Sが1,458,000円、13S Touringが1,684,800円(装備の差で+20万円)、XDが1,782,000円(ディーゼルエンジンで+30万円)、XD Touringが1,965,600円という値付けになっており、1.3Lエンジンと1.5Lエンジンとの間の価格差は15万円に設定されています。今のマツダは正価販売を旨としており、1.3Lエンジンの値段で1.5Lエンジン車を売ったりしないでしょうから、15S Touringの価格を13S Touringよりも15万円高い183万円に設定したとすると、
  • 同じ装備で1.3Lエンジンでもよしとすれば15万円安い。15万円の差を感じるほどの走りの差なのか。1.3Lエンジンでも公道で流れに乗って走ることは可能。性能曲線を見比べてみても1.5Lだと1.3Lよりもパワーとトルクが10%増しで相似拡大したような特性。
  • 装備を減らせばXDをもっと安く買うことができて、走りはもっと良く、特に高速巡航では快適。XDは15インチホイールなので出足が軽く街乗りでも快適。
  • あと15万円足せば同じ装備でXD Touringを買えて、高速道路ならこちらの方がはるかに楽。
という意思決定に直面します。このような状況で15S Touringを買う人がいるかといえば、たしかに難しいかもしれません。デミオのガソリンエンジン車は素直でバランスが良いのが長所ですが、ディーゼルエンジン車の圧倒的なトルクのような際立ったものが無いために、他車との比較において抜きん出ることが難しいです。アクセラ1.5Lと比べても淡白な味付けになっています。

しいていえば、ディーゼルエンジン車でも4WD車なら前後の重量バランスが良いですが、2WD車よりも20万円高くなりますので、15S TouringとXD Touring 4WDとの価格差は35万円です。しかし4WD車を必要とするような寒冷地に住んでいればガソリンエンジン車の4WDとの比較になりますので、価格差が縮小します。

それにしても、1.5L自然吸気ガソリンエンジンと1.5Lディーゼルターボエンジンとの価格差が15万円となると、実はディーゼルエンジンの価格競争力はなかなかのものではないかと思います。後処理装置が不要なSkyactiv-Dならではでしょう。一方、排気量は同じ、圧縮比もほぼ同じで、両方ともアルミブロックですので、ターボ等の補機を除いた部分の重量はほぼ同じのはずなのですが、実際にはディーゼルエンジンの方が100kg重く、どの部分が重量増に効いているのか気になります。

1.3Lガソリンエンジン車はヴィッツやフィットに合わせた価格設定ですし、ディーゼルエンジン車はアクアやフィットハイブリッドに合わせた価格設定で、かつマツダのマーケットシェアのもとでこれらの相場に影響を及ぼすことは難しいでしょうから、与件とせざるを得ません。他に比較対象があるクラスですと、経済的に折り合いそうにありません。

他社との比較でいえば1.5Lクラスに属しますが、カローラはおろか日産ノートのスーパーチャージャー付と比べても室内や荷室が狭く、しかもノートの最上位車種メダリストよりも高いです(値引きを考慮すればもっと価格差がつくことでしょう)。では走りだけでどこまで勝負できるかというと、たしかにアクセラ1.5Lに比べれば重量が小さい分だけパワーに余裕がありますが、ガソリンエンジン車だと他車と比べて圧倒的な差があるわけでもなく、しかも同じ1.5Lクラスにデミオディーゼルがありますので、走りに圧倒的な差を求める人はディーゼルエンジン車を求めることでしょう。結局、ディーゼルエンジン車には無い俊敏さや曲がりやすさを活かせる用途というと15MBのようなスポーツ走行向けということになってしまいそうです。

せっかくですのでUKのサイトを見てみたところ、115psモデルは日本の15MBに相当するMTの"Sport"のみで15995ポンド。90psのMTの"Sport"は14995ポンドですので、価格差は約18万円。90psのATの上級グレードとディーゼル(AT)の価格はそれぞれ16595ポンドと17395ポンドで、価格差は約14万円。Apple to appleで比較すると、ディーゼルエンジンはなかなかお買い得ですし、場合によっては1.5Lガソリンエンジンよりも安いです。1.5Lの上級グレードが難しいのは日本の市場だけではなさそうです。

UKも日本と同様に公道の速度域が低いので、ではアウトバーンのあるドイツならどうかと思って見てみました。すると、上級モデルのExclusive-Lineの6MTで105psのディーゼルが17490ユーロ、115psの1.5Lガソリンエンジンが18890ユーロと、なんとガソリンエンジンの方が18万円ほど高いです。なお、90psの1.5Lエンジン車は15390ユーロ、75psに減格したモデルだと12890ユーロです。欧州ではエンジン出力に応じて税金や保険料が決まるため、節税のために高回転域の最高出力のみ減格している車が売れ筋で、高出力の車は高い税金や保険料を払える人向けに本体価格も高く設定される傾向があり、結果的にディーゼルエンジンよりも高出力の1.5Lガソリンエンジンの方が高くなっているようです。115psのガソリンエンジン車はドイツでもスポーツグレード扱いのようです。ドイツでは日本と同様にガソリンよりも軽油の方が安いため、ディーゼルエンジン車はお買い得です。

ドイツといえばPoloはどうかと思って見てみると、HighlineのMTの場合、105psの1.4Lディーゼルで19400ユーロ、110psの1.2Lターボで17925ユーロ、同じく110psの1L3気筒ターボで18075ユーロとなっています(なぜか1L3気筒の方が高い)。90psの1.2Lターボだと16850ユーロです。さすがにこちらはディーゼルエンジン車の方が高いです。後処理装置を含めた補機類の多いディーゼルエンジンの方が高価なのが普通で、後処理装置不要のマツダのディーゼルエンジンのコスト競争力の高さが伺えます。