2020年6月7日日曜日

いまどきのCVTとマツダATの将来

マツダ車の燃費を他社の最新の車の燃費と比較すると、WLTCモード燃費のうち、郊外や高速道路といった比較的高めの速度域でマツダ車の燃費が劣るのが気になります。マツダが10年来6速ATを使い続けている一方で、他社のCVTではギアと併用することでCVT本体を小型軽量化して動力伝達効率を改善しつつ、レシオカバレッジを拡大して高速域での燃費を改善しています。

例えば日産とスズキと三菱が採用しているジヤトコの副変速機付CVTや、トヨタの発進段付CVT(ダイレクトシフトCVT)や、ダイハツの高速域で歯車に動力を配分して動力伝達効率を改善しているCVT(D-CVT)等です。CVT単独でレシオカバレッジを大きく取ろうとするとプーリーが大きく重くなってしまい、ただでさえステップATよりも大きくて重いCVTがさらに大型化してしまい、そのままでは小型車に乗せられません。そのため、無段変速でエンジンのトルクバンドを最大限活用して燃費を改善できる一方で、レシオカバレッジの狭さから特に高速域の燃費に課題がありました。そこで歯車を補機としてCVT本体の大きさを抑えることで解決しているわけです。

各社のATやCVTのレシオカバレッジをまとめたページがあり、便利です。これを見るとマツダの6ATのレシオカバレッジはだいたい6前後です。カローラに採用されている旧来のCVTのレシオカバレッジが6.263と、この時点で既にCVTの方がレシオカバレッジが大きいですが、RAV4のダイレクトシフトCVTのレシオカバレッジは7.555と8AT並の数字です。ノートやスイフトが採用しているジヤトコの副変速機付CVTのレシオカバレッジは7.284あります。この一覧には載っていませんが、ダイハツのライズに導入されているD-CVTのレシオカバレッジは7.3と、7AT並の数字です。スバルのインプレッサのCVTはギヤを併用しているわけではありませんが、それでもレシオカバレッジが7.031あり、つい最近まではレシオカバレッジで優位にあり、水平対向エンジンの燃費の悪さを補っていたことが見て取れます。

となると、いまどき7AT相当のレシオカバレッジでないと高速巡航時の燃費で競争力が劣ることになります。ATでレシオカバレッジを拡大しようとしたら6ATのままギアをワイドにするか、あるいは多段化ですが、ギアがあまりにワイドになればトルクバンドのピークから外れて低速域や中速域での燃費が悪くなりますし、かといって多段ATは重くて高価ですので小型車に積むには厳しいです。

マツダはさしあたり6ATのまま、直列4気筒のSkyactiv-Gに気筒休止を導入することで高回転低負荷の高速巡航時の燃費を改善しようとしているようです。環境規制が厳しく速度域の高い欧州向けで、CX-3の2Lエンジンに気筒休止を順次導入しているところです。コストがこなれてきたら日本向けにも導入してほしいものです。ただ気筒休止はパワーに余裕のあるエンジンでないと費用対効果がなくて、とりわけ排気量課税の日本では排気量の小さいエンジンが好まれますし、高速道路の速度域が低ければ高速巡航時の燃費を改善しても効果が限られています。

変速機側で解決するとしたら、CVTが歯車という補機を導入してレシオカバレッジを拡大したのと同様に、6ATに補機を付けて低速域でのトルクを太くすることで、ギアを高速寄りにするというやり方もありえます。3年近く前のmotor-fanの記事では「どうせ電動化するのだからトルクコンバータの代わりに電気モーターを付ければよいのではないか。もはや変速機単体で多段化する意味はない」としています。最近はマイルドハイブリッドが主流になりつつありますので、最初から発進時や変速時にモーターアシストする前提でそれに最適化された設計すればよいのかもしれません。モーターでトルクを調整する前提であればGVC+の制御も容易になります。

低速域を電気モーターに担わせるべきなのは、電気モーターが低回転で高トルクを発生させるからであり、また、電気モーターは回転数が上がると逆起電力が発生してトルクが細くなるからです。一方、ガソリンエンジンは低回転でトルクが細く高回転でトルクが太くなりますので、低回転側は電気モーター、高回転側はエンジンという役割分担が一般的です。低回転側を電気モーターに任せることができるなら、よりハイギアードにすることができます。その副産物として変速機のトルク容量に余裕ができることから、よりトルク容量の小さい、小型で軽いATに置き換える余地ができます。そうなればマイルドハイブリッドシステムのような補機の重量とコストの影響を軽減することができます。