Mazda 3やCX-30の年次改良の噂で、1.8Lディーゼルエンジンの出力が116psから130psに向上するというものがあります。もしそんなことができるのだったら、どうして今までやらなかったのか、どうすればできるのか気になりましたので、予想してみました。じきに正式に発表されるでしょうから、そのときになればわかることですが。
ディーゼルエンジンの性能の制約要因は環境規制です。主な規制物質はNOx(窒素酸化物)とPM(煤)で、エンジンの負荷が高くなり空気が高温高圧になるとNOxが発生しやすくなり、不完全燃焼するとPMが発生しやすくなります。
エンジンの出力を向上するためには、最大出力を出せる4000回転付近でのトルクを向上させる必要があります。1.8Lディーゼルエンジンの最大トルクは1600回転から2600回転くらいで発生し、回転数が上がるにつれてトルクが落ち込みますが、過給圧を上げて燃料を多く吹いて高回転域のトルクを上げれば3500回転から4000回転付近のトルクが向上し、その分出力が向上することになります。とりわけ、Mazda 3もCX-30もエンジン出力の割に重いので、ギアを低めにして3000回転~4000回転を多用しますので、この回転域のトルクが向上すれば性能向上を実感できることでしょう。
そこでネックになるのがNOxです。今まで後処理装置なしでNOxの排出量を規制値以内に収めるために圧縮比を下げたり、270NmまでEGRを使えるよう排気量を1.5Lから1.8Lに拡大してきたりしましたが、高回転域での負荷をこれ以上上げようとしたら排気量をさらに大きくするか後処理装置をつけるしかありません。しかるに1.8Lエンジンとされていることから、排気量拡大ではなく後処理装置で対応するのではないかと予想します。
既に欧州向けではEuro6dに対応するために窒素酸化物を還元する触媒をつけています。触媒で還元する方式はBMWのディーゼルエンジンで採用されています。これを日本仕様にも採用し、日本の環境規制に適応できるまでエンジン負荷を高めれば出力を向上できるのではないでしょうか。それでも足りなければ欧州向け2.2Lエンジンと同様に尿素SCRを導入すればさらに伸びるかもしれません。
環境性能を改善できるなら、トルクの上限を270Nmから拡大できるかもしれません。もともと1.8Lのトルクの上限はNOx発生量が急激に増大しない水準に設定されており(実際には270NmまでNOxの発生量が急激に上昇しない水準に排気量が設定されました)、触媒によってNOxを還元できればトルクの上限を少し引き上げても規制値以内に収まりそうです。その場合には、すべての回転数においてトルクが向上し、性能向上をさらに実感できることでしょう。
(2020年10月8日補足:現状では変速機のトルク容量270Nmに制約されていますので、これは無理ですね。270Nmを出せる回転数が拡大することで、フラットな特性になりそうです。実用的な回転域で常に270Nm出せるようになったら、Skyactiv-Xの性能も向上しないと存在意義がなくなってしまいます。)
エンジン制御ソフトウェアの変更だけなら既存車にも適用できますが、エンジンのハードウェアに手を加えるとなると既存車には適用できません。その代わり後処理装置を追加すれば製造コストに跳ね返ります。
あとは値付けの問題で、強気な値付けができる時期ならコストと性能が上がった分だけ値上げするのでしょうが、新型コロナウイルスで世界的に購買力が落ちている中で車を売ろうとしたら実勢価格を下げる必要があります。もしかしたら、エンジンに後処理装置が追加されても価格を据え置いてお値打ち感を出すということもあるかもしれません。
もともとMazda 3やCX-30の重量の車に手頃なサイズのディーゼルエンジンが無かったためにディーゼルエンジン車の売上が伸び悩んでいましたが、もし1.8Lディーゼルエンジンの性能が向上するなら、やっとこのクラスの車に適したエンジンが登場することになります。
それにしても、もし噂通りだとしたら、性能向上を排気量拡大でやらなかったのは意外です。ラージクラスでは直列6気筒3Lのディーゼルエンジンが計画されており、それをベースに直列4気筒2Lエンジンを作るなら同一の燃焼モデルで安価に開発できそうですので、てっきりそうするものと思っておりました。2Lエンジンなら後処理装置無しでトルクの上限を無理なく300Nmくらいまで引き上げられそうですから、そちらの方がコストが安いはずです(ただしトルクを引き上げられるのはトルク容量を引き上げた新型変速機を採用する場合のみ)。1.8Lエンジンと2Lエンジンなら税金も同じです。もしかしてラージクラスの開発が遅れていることから、新2Lエンジンまでのつなぎとして、既にある触媒を1.8Lエンジンにつけることにしたのでしょうか。エンジンルームのスペースに余裕が無いのだろうかとも思いましたが、Skyactiv-Xはカプセル化した結果ディーゼルエンジンよりも大きいので、エンジンのサイズが制約となっているわけではないのではないかと推測します。
(2020年10月8日追記:CX-3も1.8Lディーゼルエンジンを積んでいますが、こちらはどうなるのでしょう。BセグメントのCX-3はMazda 3やCX-30よりも軽いので、高価なNOx還元触媒をつけてまで出力を上げる必要があるようには見えません。むしろ出力そのままで、CX-30用ディーゼルエンジンと性能で差がついた分だけ値下げした方が売れそうに見えます。)