2016年5月6日金曜日

Gベクタリングコントロール

マツダからの正式な発表はまだありませんが、メディア向けにGベクタリングコントロールの試乗会が行われ、いろいろな記事になっています。元になる技術の解説は開発元の日立の技術論文(安全走行を支援する新しい車両運動制御技術「G-Vectoring制御」日立評論Vol.91 No.10 784-785)に記載があり、Gの滑らかの移動を実現すべくエンジンのトルクを増減させる技術とのことです。「ハンドル操作によって車両に発生する横方向の加加速
度(ジャーク:加速度の時間変化)に基づいて前後加減速を制御」するとあります。理論は2009年の論文発表時に確立していたものの、緻密に前後加減速を制御するためには5ミリ秒単位、0.05G単位といった微小な単位でコントロールできるレスポンスの良いエンジンが必要なため、そこでマツダのSkyactiv-GやSkyactiv-Dに白羽の矢が立ったようです。

期待される効果は以下の通りです。
  1. 下手な人が運転してもGの移動が滑らかになるので、上手な人と同じような運転に近づくことができる。
  2. 同じ速度で曲線を通過する場合であっても走行安定性が向上する結果、曲線通過速度が高くなる。
  3. 路面の細かい凹凸による修正舵が不要になり、疲労が軽減される。
1.と2.については上手な人の運転を再現する技術のため、下手な人にはかなり効果がある反面、既に上手な人には効果は限定的なようです。とはいえ、車に乗り慣れた自動車評論家が運転しても効果を体感できるようですので、一般のドライバーにとってはかなりの効果を期待できそうです。また、i-DMが車を買ってくれたお客を「ヘタクソ」呼ばわりしてドライバーを調教するよりも短期間かつ確実に効果を出すことができるのは画期的だと思います。エンジントルクを制御する技術ですので、コーナー進入前にアクセルを離したりブレーキをかけたりしているときにはエンジンが介入する余地はありませんが、曲線に進入してまもなくアクセルを踏んでからや、ブレーキをかけるまでもない緩いコーナーでは効果がありそうです。

3.については人間よりも緻密な制御が可能で、ダート走行時にGベクタリングコントロールを有効にする前と有効にした後を比較している動画を見てみると修正舵が激減しているのが容易に見て取れます。あいにく4輪車が走行できるような日本の公道からはダートがほとんど姿を消してしまいましたが、それでも路面の細かい凹凸はいたるところにあり、そのような道路を平滑な路面と同じように運転できればさぞかし快適ではないかと想像します。

そこで、デミオディーゼルを運転する際にどの程度修正舵を当てているのか注意してみましたが、あいにくフロントヘビーで直線安定性の良いデミオディーゼルではもともと修正舵があまり必要ないことがわかりました。動画ではアクセラ1.5LのMT車が用いられていますが、これはマツダのFF車の中ではもっとも頭の軽い車ですので曲がりやすく、かつあまりパワーの無いエンジンですのでアクセルを踏みっぱなしで運転することになりますので、Gベクタリングコントロールの効果が最もわかりやすい車だといえます。アクセラ1.5Lほどでないにせよ、デミオXDは15インチホイールですし、ステアリングホイールも細いため、16インチホイールでどっしりした XD TouringよりもGベクタリングコントロールの効果を期待できそうです。あるいは横剛性の低いスタッドレスタイヤを装着しているときには効果を実感できるのでしょうか。

あるいは、FF車よりもFR車の方が効果を実感しやすいのかもしれません。仮にCセグメント以上をFFからFRに切り替えるとしたら、FF車と同等以上の直進安定性が求められるでしょうから、GベクタリングコントロールがあればFR化する上で有利でしょう。

長距離運転時の疲労が軽減されるとなれば、長距離運転と相性の良いディーゼルエンジン車でどのような効果が出るのか興味があります。ディーゼルエンジン車はまっすぐ走るのは得意な反面、曲がるのはあまり得意ではありませんので、Gベクタリングコントロールのおかげで曲がりやすくなればディーゼルエンジン車の弱点が解消されることになります。ただ、ガソリンエンジンならともかく、ディーゼルエンジンのレスポンスがそこまで良好なのか、普段運転していて実感がありません。環境対策のために敢えて緩慢な動きをするよう制御されているだけで、実際にはレスポンスが良好なのかもしれませんが、これについては実車を運転してみないとわかりません。