2018年5月13日日曜日

もし日本仕様のデミオに1.5Lガソリンエンジンを搭載するとしたら

デミオの海外仕様の大半は1.5Lガソリンエンジンを積んでいますが、日本仕様は1.3Lガソリンエンジンです。日本仕様のガソリンエンジンが1.3Lであるのにはいくつかの理由が考えられます。

  1. 燃費
  2. コスト
  3. 競合車種
  4. 値付け
1.燃費

日本人は燃費に敏感で、さほど乗らなければ燃料コストに大きな差が出ないにも関わらずアピールポイントになります。ハイブリッド車は燃費が良い代わりに価格が高く、本来ならかなりの距離を乗らないと元が取れないにも関わらず、プリウスやアクアのようなハイブリッド車はとても売れています。

また、エコカー減税を獲得するためにも燃費性能が必要です。しかし、ディーゼルエンジン車が免税なのに対してガソリンエンジン車は厳しくて、現状の1.3Lエンジンの場合、FFのAT車でやっと平成32年度燃費基準達成でかろうじて最低限のエコカー減税が適用されているのを除けば、4WDで平成27年度燃費基準+10%、MTでは平成27年度燃費基準+5%ですので、既にエコカー減税から脱落しています。15MBは燃費度外視のスポーツグレードですのでそもそもエコカー減税の土俵に乗っていません。

しかもエコカー減税は縮小傾向にあって、このままだとガソリンエンジン車はすべてエコカー減税から脱落しかねません。1.3Lエンジン車がすべてエコカー減税から脱落してしまったら敢えて燃費のために1.3Lエンジンを載せる必然性はなくなります。あるいは、気筒休止で燃費を改善する積極策もありますが、パワーに余裕のない1.3Lエンジンで気筒休止を実装してもさほど効果を期待できませんので、もしやるとしたら1.5Lエンジンで気筒休止を実装する方が燃費競争で有利かもしれません。

さらに、従来のJC08モード燃費から、より実燃費に近い基準へと変化しており、特に高速走行時や高負荷時の燃費性能が重視されるようになっていますので、新しい基準に適合するエンジンが求められます。JC08モード燃費では1.5Lエンジンの方が不利でしょうが、WLTCモード燃費表示に切り替える際にもし1.5Lエンジンの方が実燃費で有利なら、数字が良くなる可能性があります。欧州でも燃費性能の競争がありますが、こちらは欧州複合モード燃費ですのでモノサシが異なりますし、1km当たりのCO2排出量というモノサシもあります(だからCO2排出量の少ないディーゼルエンジンが有利)。

一般に排気量が拡大すると燃費が悪化する傾向にありますが、1.8Lディーゼルエンジンを開発する過程で、排気量を増やしても燃費を悪化させない工夫がなされましたので、これを1.5Lエンジンにも適用すれば燃費を向上できるかもしれません。そうでなくてもCX-5向けに導入された2Lガソリンエンジンの改良と同様の改良はいずれ1.5Lエンジンにも導入されるでしょうが、CX-3の燃費の数字を見る限りでは、燃費へのインパクトはほぼ無いようです。

2.コスト

コストには2種類あります。開発コストと製造コストです。1.3Lエンジンと1.5Lエンジンとの比較では、製造コストにはさほど差が無いのではないかと推測します。開発コストはハードウェア開発だけでなく、ソフトウェア開発や型式認定取得のコストも含まれます。開発コストについては数の出るモデルの方が1台当たりの開発コストの配賦が小さくて済みます。1.3Lエンジンは日本とタイ向けのデミオ専用であるのに対し、1.5Lエンジンは欧州その他各国のデミオ用や、世界各国のアクセラ用に生産されています。ロードスター用の1.5Lエンジンのベースでもあります。

今後次世代エンジンを開発するにあたって、1.3Lエンジンと1.5Lエンジンの両方を開発する場合の開発コストと、1.5Lエンジンのみ開発する場合の開発コストとを比較したら、1.5Lエンジンのみ開発して日本仕様のデミオにも1.5Lエンジンを積んでしまった方が安くつく可能性もあります。タイ向けには現状の1.3Lエンジンをそのまま使い続けるという選択肢があります。

3.競合車種

競合車種との比較では、ヴィッツやフィットの自然吸気ガソリンエンジン車では1.3Lエンジンを積んでいますし、スイフトやノートは1.2Lエンジンです。日本の公道ではこれくらいの動力性能があれば走れてしまいます。さすがに高速道路で長距離を走るのには厳しいですが、それは他のBセグメント車でも同様ですし、高速道路で楽に走りたかったらトルクの太いディーゼルエンジン車という選択肢があり、ガソリンエンジンの排気量が少し増えたくらいではディーゼルエンジンの優位は揺らぎません。アクセラは1.5Lガソリンエンジンと1.5Lディーゼルエンジンの両方がありますが、全く競合していません。

尚、競合車種との比較においては、価格や動力性能だけでなく、燃費性能の競争もあることに注意が必要です。

4.値付け

値付けについては、他の商品とのバランスを考慮して異なる性能の商品には異なる値段をつける必要があり、1.5Lガソリンエンジン車につけられる値段は1.3Lガソリンエンジン車以上1.5Lディーゼルエンジン車未満ですが、価格差が最大で30万円の中で中間の価格をつけると「もう少し足せばもっと高性能なものを買える」という状況になり、あまり売れそうにありません。かといって1.3Lエンジン車とほぼ同じ値段で1.5Lエンジン車を売れば1.3Lエンジン車の中古価格が著しく下落します。

とはいえ、CX-3では競合車が1.5Lガソリンエンジンなのに対して2Lエンジンを搭載し、しかも1.5Lディーゼルエンジン車よりも30万円安くしましたので、1.5Lエンジン車の値段で2Lエンジン車を売っています。アクセラでは2Lガソリンエンジン車の代替で1.5Lディーゼルエンジン車を同じ値段で販売しているのに対して、CX-3では2Lガソリンエンジン車を安くしています。最近のマツダは値付けについては柔軟なのではないでしょうか。ただし高価なCX-3においてはデミオほど燃費性能に対するプレッシャーが無いことに注意が必要です。それにCX-3のガソリンエンジン車はさほど売れているわけではありません。

上記を踏まえながら今後デミオに搭載されるであるガソリンエンジンを推測すると以下が思いつきます。
  1. 改良型1.5Lエンジン(気筒休止で燃費性能にチャレンジ)
  2. 改良型1.3Lエンジン(細かい改良の積み重ねで燃費性能をブラッシュアップ?)
  3. 現行1.5Lエンジンのお下がり(90psに減格する等燃費重視のセッティングでどこまで燃費を追及できるか)
  4. 現行1.5Lエンジンのお下がり(本来の性能のままなら性能は向上するが燃費は確実に悪化)
  5. 現行1.3Lエンジンを使い続ける(性能向上は全くないがとりあえずコストはこれが一番安い)
1と2を比較すると1の方が費用対効果にすぐれているように見えます。コスト重視であれば3と4と5で、ともに開発コスト回収済みとすればあとは製造コストの差ですが、それもさほど無さそうです。手っ取り早く性能を向上させるなら2より3や4の方が割安ですが、4では燃費性能は期待できません。3なら1.3Lエンジンと同じ値段で売るのに抵抗がありません。ただし、3で燃費性能が向上するなら日本向けでもとっくにやっているはずです。燃費の測定方法が変わればまた違ってくるでしょうが。

3と4は新エンジンと旧エンジンの共存を想定したものですが、航空機では旧世代エンジンと新世代エンジンの併用があって、例えばエアバスではNew Engine Option (NEO)とCurrent Engine Option (CEO)の両方が販売されています。CEOの方がコストが安かったり納期が短かったり、従来機種と整備を共通化出来たりといった独自の利点があります。それらの利点が自動車でどの程度あてはまるのかはよくわかりませんが。

タイ市場には1.3L縛りがありますが、だからといってタイ市場だけのために1.3Lエンジンを改良するのは費用対効果が良くないので、エコカー優遇税制の適用を受けられる限り現行エンジンで引っ張る可能性があります。

個人的には1が最もありがたいですし、どのみち1は欧州の環境規制に適合するために必要だと思いますが、1.3Lエンジンも残さなければならないとなると、上位グレードで1、下位グレードで5と併用するのが現実的かもしれません。今の1.3Lエンジンだって日本の公道ではちゃんと走ります。しかもアクセラ1.5Lよりもパワーに余裕があります。数の出る1.5Lエンジンには開発コストをかけ、1.3Lエンジンには極力コストをかけないという考え方を取ると1と5になります。2は費用対効果が悪いですし、3と4は、走行性能はともかく、エンジン自体の燃費性能には限度があり、現在の欧州仕様よりも燃費性能が改善することはありません。

1のさらに上にはSkyactiv-Xのマイルドハイブリッドもありえますが、ディーゼルエンジンと並んで最上位グレードでしょうから、現行のガソリンエンジン車とは別物でしょう。