2021年2月28日日曜日

MX-30のEVに試乗しました

サービスキャンペーンで入庫した際に、待ち時間にMX-30のEVに試乗させていただけました。内装やドアについては別のエントリーで書きましたので、ここでは触れません。

【第一印象】

ガソリンエンジン車と同じ使い勝手で運転できますので、とても扱いやすいです。ブレーキペダルを踏んでスタートボタンを押してシフトレバーをDに入れてパーキングブレーキを切ってアクセルを踏めば走り出します。ただし、シフトレバーでPレンジを右側に倒すのだけはなじめませんでした。Rに入れるべきときに間違ってPに入れるリスクはどの程度なのだか知りませんが、コンビニアタックはRに入れるべき場面でDに入ってしまうのが原因ですので、むしろRとDを間違えないようなシフトレバーの方が必要ではないでしょうか。

【加速】

アクセルを踏み込むと必要なだけ加速しますのでストレスフリーです。加速がもたつくことはありませんので車体の重さを感じることもありません。試しにアクセルを踏み込んでみて勢いよく加速させてみましたが、あまり激しく加速させても楽しくありません。電気モーターですので低回転でもトルクが太いですが、ディーゼルエンジンのような力強さを感じることはなく、あくまでも自然です。力強さを売りにするような味付けにすると電力消費が増えてバッテリーが持たなくなりますので、穏やかに走らせてもストレスが無いような繊細な味付けにしているのではないでしょうか。

【ブレーキ】

回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御が完璧で全くギクシャクしません。これはすごいです。ガソリンエンジン車と同じ感覚で狙い通りの位置に停止できます。回生ブレーキが効いているときにはメーターパネル左側のメモリがChargeの側に振れてバッテリーへの充電が可視化されますので、うまく電力回生できると達成感を感じます。ステアリングシフトスイッチで回生ブレーキを強められるようですが、試すのを忘れました。

【コーナリング】

市街地のみでワインディングは走っていませんが、交差点を曲がるときにはノーズがすっと入ります。後でボンネットを開けてみたらエンジンルームがスカスカで、これだけ前が軽くて後方床下にバッテリーが入っていたらたしかにノーズは軽いでしょう。車高の割に重心が低いので気持ちよく曲がれます。

【視界】

Aピラーが立っていますので、フロントガラスやAピラーが目の前に来るような圧迫感がなく、見切りが良いです。バックの際はバックモニターとミラーを見ればCピラー付近の死角も気になりません。あとは左折時の巻き込み防止のための後方目視ですが、たしかにこれは見えにくいです。

【静粛性】

さすが電気自動車ですので静かです。発進時には電気モーターやインバータの音がわずかに聞こえますが、中速域ではエンジンを模した人工音が入ってきて、アクセルを踏むと力を出している感覚が得られます。ガソリンエンジン車と同様の自然な運転間隔が得られますが、それだけでなく、アクセルを踏みすぎるとうるさいので、自ずと必要以上にアクセルを踏まないことが期待されているのではないでしょうか。

レンジエクステンダーやPHEVやシリーズハイブリッド車のようにエンジンがついていれば、アクセルの踏み込み度合いに応じてエンジンを回すくらいのことはするでしょうから、そのときには人工音ではなく本物のエンジン音になるでしょう。もしかして今の人工音はロータリーエンジンを念頭に置いたものだったりするのでしょうか。

【乗り心地】

Mazda 3よりも乗り心地がよいかと期待したのですが、意外とゴツゴツしました。おろしたての新車ですのでまだ足回りの角が取れていないようです。しかしそれでも余計な揺れは一切なく、びしっと位置が決まっていました。ちゃんとまっすぐ走ります。まるで覆面パトカーのクラウンのような安定感です(だからこそ挙動だけでなんとなくわかります。素人の運転するクラウンはふらつきますし、速度ムラもあります)。レシプロエンジンという絶えず振動を発生させる重量部品が無いのと、電気モーターによるGVCはエンジンによるGVCよりも精度が高いということによるものでしょう。運転中はGVCの効果を特に実感することはなかったのですが、Mazda 3に乗ってから「そういえばMX-30は全く揺れなかったな」と気が付きました。

【バッテリー残量】

残量4分の1で走行可能距離50km程度でしたので、満充電での走行距離はやはり200kmくらいでしょう。しかし、走行可能距離50kmくらいでバッテリー残量不足の警告がメーターパネルに出ていましたので、この状態で乗ると落ち着きません。たしかにEVの充電スポットはガソリンスタンドよりも数が少ないので、ある程度早めに警告を出す必要があるかもしれませんが、街乗りだけでしたら残り50kmで警告が出るのは早すぎる気がします。実際には、自宅で夜間に充電できれば毎朝満充電で出発できますので、街乗りだけでしたらバッテリー残量不足の警告が出ることはないでしょう。

【エアコンのタッチパネル】

電気がもったいないので、エアコンを切りました。運転中に操作するものなのにタッチパネルというのはいかがなものかと思いましたが、左右両端の物理スイッチを押せば大抵の操作ができますので、運転中の操作にも支障しません。

【BOSEスピーカー】

試乗車にはBOSEのスピーカーがついていましたが、試乗車ですのでラジオを聴いただけで、あまり音の良さを実感することはありませんでした。これなら普段乗っているMazda 3の標準スピーカーの方が音が良いです。もっとも、ラジオの音ではドンシャリ系音源に強いBOSEのスピーカーの良さを引き出せませんので、きちんと評価しようとしたらそれにふさわしい音源が必要です。

【価格】

とてもよくできた車ですが、乗り出し500万円です。CEV補助金が16万円ほど出るようですが焼け石に水です。自宅に充電設備を設置する場合には別途補助金があるようです。500万円の予算があったらヤリスクロスのハイブリッドを買ってもかなりお釣りが出ます。バッテリーEVという仕様上、街乗り専用のセカンドカーという位置づけになりますが、セカンドカーに500万円出せるのはお金持ちだけでしょう。

レンジエクステンダーEVやPHEVやシリーズハイブリッド車といったエンジンと併用する車なら航続距離が伸びますのでファーストカーとしての選択肢にも入るでしょうが、エンジンをつければその分コストが上がりますので、バッテリーを減らしてコストを下げる工夫が必要でしょう。走りは素晴らしいので、ノートe-Powerと同様のシリーズハイブリッド車でも十分に魅力的ではないかと思います。ノートe-Powerが内外装をけちって乗り出し350万円でそれなりに売れているようですので、Cセグメントで内外装とも妥協の無いMX-30なら乗り出し400万円くらいでも売れるかもしれません。レシプロエンジンのマイルドハイブリッド車よりも魅力的に思えますが、まだ出ていないということは熱効率にすぐれたエンジンの準備が出来ていないのでしょうか。あるいは、もう一回り小さいMazda 2のフルモデルチェンジのための隠し玉として取ってあるのでしょうか。一回り小さくて乗り出し300万円〜350万円くらいになれば手に届きやすくなります。

【グレード】

乗り出し価格を調べるために諸元表を参照しましたが、走りについてはどれも同じで、ホイール径も同じです。内外装にお金をかけたりBOSEのスピーカーをつけたりすればその分高くなる程度です。もともと高いですし、走りだけでも十分に素晴らしいので、それ以外のものにさほどお金をかける必要はあまり感じませんでした。ナビ用のSDカードとETC、あとは必要に応じてドライブレコーダーくらいを買えば十分かもしれません。

【総評】

この車のコンセプトは、バッテリーが高価で重いという技術的な制約によって導かれたように見えます。テスラのようにびっくりするような加速をするためには大量のバッテリーを積まなければならず、そうしようとすればとんでもない値段になります。テスラは初物でしたのでお金持ちのおもちゃとして売れていますが、マツダがそんな車を作っても売れません。バッテリーを無駄遣いしないように穏やかな走りを促そうとすると、穏やかに走ってストレスを感じないよう精緻に作り込むのと、アクセルを踏み込んだらそれなりに燃料を無駄遣いした感覚をもたせることが必要になるでしょう。